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2月 11th, 2013 Comments: 0

クイント×バラード

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『×』書いてるけど、そういうの期待するとロクな目にはあわないです(汗)。

ワールド4からワールド5の間…かな。ワールド4のネタバレ含むので注意…ってみんな知ってるか…。

 シュイン、と。
非常に先鋭的なデザインの電子扉が開く。

「たっだいまー、あー…メンテナンスかったるかったァ」
「…戻ったか」

電子扉の向こうから淡い紫色をしたナナメバングのセミロングを軽くかき上げて入ってきたの少女は、『RKN.03 BALLADE』。彼女を迎えた茶髪の少年は『RKN.01 ENKER』。

世界でも数少ない、『純人型ロボット』の兄妹だ―――Dr.ワイリーの手によって作られた、『ロックマンキラー』の―――。

「兄ィ、戻ってたのか。…博士に頼まれたお使いは? 科学省への」
「つい5分と27秒前に済ませて戻って来た所だ。科学省には長居する必要ないと、博士に言われているからな」
「…そりゃあんなケッたクソ悪い所なーんか、長くはいたくないやネ」

科学省がどういう所なのかを思い浮かべて、バラードは心底ウンザリした顔になった。

ここは、Dr.ワイリーの基地(表向きは『研究所』となっている)の地下の、Dr.ワイリーが開発(または登録)したロボット達が普段待機している部屋の1つである。

スリープモード用のカプセルが4つ並んだ部屋の中央にある、電子扉と同じデザインの白いテーブル。それとセットで置かれているやはり同じデザインのイスの1つに、バラードは腰を下ろした。
それにあわせて、エンカーが『博士から』とE缶を1つ手渡す。バラードは『うん』とだけ答えて、右手人差し指の注入口を開放してE缶と接続した。

E缶1つがすっかりカラになる頃、バラードは気づいた。

「…あれ? 『アイツ』…起きてるの?」

4つあるスリープモード用のカプセル。

1つはエンカーのもの。
1つはバラードのもの。
1つはパンクの―――2度と使われる事は無いであろう―――もの。

もう1つは、彼―――『QUINT』のものだった。

普段は『未来のロックマン』であるが故に、その身体は『今』では追いつかない技術が細部に施されているため、また彼自身が『それ』を望んでいるのも手伝って殆ど『起動』する事が無い。

すでに改造された身体のため、『元いた場所』に帰る事ももう…かなわない。

よって、バラードが驚くのも無理は無かったのである。

「…起きている様だな」
「でも、ここにはいない…よ? センサーに反応無いもの」
「その様だな」
「どこに行ったのかな…」

バラードの問いかけに、エンカーは終始無表情だった。

「…何かあったら大変だ。アタシ、探してくるよ」
「…おそらくグリーン大陸・座標SE-DRR-0012あたりだろうさ」
「何でそんなハッキリ場所分かるの?」
「お前が出来る前にも1度だけ…似た様な事があった」
「???」

エンカーの言い回しに引っかかりを感じながらも、バラードはちょっと行って来ると言って再び電子扉をくぐって行った。
ちゃんと、E缶のお礼を最後に付け加えて。

「……」
(クイントが行く場所は…たぶん『あそこ』だろう)

(バラードなら、あるいはクイントを…)

バラードがテーブルに残したE缶のカラをエンカーは片付け始めた。

************

「しっかし兄ィも変なの…変って言えばクイントもだけど。何だってこんな遠くに…」

Dr.ワイリーに貰ったバラード専用エアバイクで、バラードは地上30メートル程度の地点を高速で飛ばしていた。
途中『不審な機体』とマークされて、やれブンビーヘリだのガンナージョーだのに追いかけられる1幕もあったが、威嚇発射したバラードクラッカー1発で全て沈黙させたのだった。

(もうすぐ、兄ィの言っていた座標……あっ)

エンカーの言っていた座標近くになって、バラードは気がついた。
その座標が、いったいどこのものなのかを。

―――お前が出来る前にも1度だけ…似た様な事があった―――

(Dr.ライトの研究所…)

バラードはエアバイクを空中停止させ、そのまま空の上からしばらく様子をうかがっていた。
研究所の庭ではロールが沢山の白衣を干しており、またロックは細長い機械で芝を刈っている様だった。
笑い声も聞こえる。楽しそうだ。

(…あ、クイント…いた)

研究所の陰に隠れる様にクイントが潜んでいるのをバラードは見つけた。

(クイント…)

陰になっているせいで、クイントの表情はズームしてもよくはとらえれない。
でも、どことなく虚ろな事だけは…わかる。

(クイント…あんた……)

バラードは空中停止させていたバイクを研究所の死角となる場所に降ろして隠し、クイントに悟られない様彼に後ろから近づいていった。

…そして。

「…よっ?」
「!!?」

まるで無警戒だった後ろから軽く肩を叩かれて、クイントはとっさに身体を反転させて身構えた。
…が、すぐにその緊張を解く―――でも、少しだけ―――。

「バラー…ド…?」
「久し振り。でもそれにしちゃーずいぶん遠くまで『散歩』してるんだな」
「……」

オロオロするクイントに、バラードは彼女が出来る精一杯の優しい声で誘いをかけた。

「なぁクイント。ココじゃアレだから、どッか違う場所でお喋りしよーぜ?」
「…は、ハイ……」
(いくらなんでも、さすがに『ココ』はアタシにゃ居心地悪いよ…クイントはどうなのかわかンねーけど)

隠しておいたエアバイクの後ろにクイントを無理矢理乗せて、バラードは勢い良く空へ飛び出した。

**********

「他の場所…ってココ…ですか?」

バラードに無理矢理(?)連れて来られたクイントは、困った様な声を上げた。

「ヨソで騒ぎ起こしても後が面倒だし。ココならいくら騒いでも…ちょっとくらいなら壊しても勝手に修復してくれるし。それに、ココなら兄ィや博士も心配しないし…いい場所だろー?」

バラードがクイントを連れて来たのは、基地の地下にある待機室よりさらに地下にもぐった先の、シミュレーションルームであった。壁1面が立体スクリーンで構成されており、ホログラフ投影・実体化装置(ジェミニマンに組まれている物よりはるかに大型のもの)を使用する事で街並みから山野や宇宙空間までを完璧に体現させられる場所となっている。

「防音もバッチリだし。それになンなら、外部通信用のマイクを切っちゃえば外にも漏れないし」
「…ですが…」
「落ち着かねーか? んー…それじゃこうすッか」

シミュレーションルームのサイドにあるコントロールパネルをカチカチとバラードは手際良くいじる。
するとホログラフ投影・実体化装置が作動し……シミュレーションルームは一転して真っ暗になった。

「あ、アレ? おかしいな、アタシ違うデータ出すつもりだったンだけど…」

ホログラフが実体化したのと同時に、重力の感覚が無くなった。

小さな白い瞬きが、カメラアイのセンサー最大範囲で輝き出す。
美しい青い星は、バラードとクイントの下の方に大きく見えた。
その周りを回る荒れた薄い褐色の衛星も見える。

遠くにひときわ強く輝く恒星が見えた。太陽だ。

「な、何…ですか…?」
『ご・ゴメンよクイント、どうもアタシ地球周辺の宇宙空間を投影しちゃったみたいだ。コレ出すとプログラムの終了に手間取ンのに…全くもーッ…』

通信回線を通じて直接バラードが話しかけてくる。クイントも回線の波長を合わせて、ちょっとオロオロしながら彼女の声に答える。

『そ、それはいいのですが…この『音』…何でしょう? 空気が無い所では音は伝わらないはずなのですが…』
『え…?』

ゴウン、ゴウン、と。
確かに、何かが響くような音が2人には『聞こえた』。

『聞こえる、アタシにも聞こえるよ』
『何…何かが近づいて…きます……?』

ゴウン、ゴウン、ゴウン、ゴウン…。
2人に聞こえてくる『音』はどんどん大きくなっていく。

やがて。
暗闇に輝く星達の光を押しのけて、黒い大きな塊が2人のカメラアイに飛び込んできた。

『『!!!!!』』
(あれは…!!)

2人の聴覚センサーに激しい轟音を残して、大きな黒い塊はクイントとバラードのそばをすれすれで通過していった。

『な、何ですか、あれは…一体……』

オロオロするクイントの呟きがバラードに聞こえたかどうかは分からないが、バラードはポツリと1言だけ…その口を動かした。

『……ワイリー…戦艦……』

**********

『さっきから…黙ってしまいましたね……』
『……』

ワイリー戦艦を見た直後から、バラードは両膝を折り畳みいわゆる『体育座り』の様な格好で擬似宇宙空間をフワフワとしていた。

クイントの問い掛けにも、一切答えない。

『え…えっと……』
『……』

折り畳んだ膝に顔を埋めたまま、バラードは重力の感覚が無い中でずっとフワフワと浮かんでいる。
その表情は、笑っている様にも泣いている様にも見える。

何も話さなくなったバラードにクイントはさらにオロオロし始めた。

『あ、あのぅ、バラード…?』
『……っきの、さ……』
『え?』

クイントの回線を通じて聞こえてくるバラードの音声は、非常に弱々しいものだった。

『さっきのアレ…ワイリー戦艦…って言うんだけど…さ…アタシがロックマンと戦った場所…なんだ…よ……』
『え…?』

**********

『ロックマンと戦うのは2度目だった…1回目は途中でヘルメット割れて、アタシ逃げちゃったからさ…』
『……』

バラードは少しづつ少しづつ、ワイリー戦艦での出来事をクイントに話し始めた。
…もちろん、彼女が『最後にとった行動』の事も含めて。

『今考えるとさ、アレ、どうだったかなぁって思うよ。ホント』
『……』

ため息まじりに、バラードは1人話を続ける。

『だって、そうだろ?』

『アタシ、ロックマンキラーなのにさ』

『ロックマンは正しいって思って』

『自分が間違ってるって思って、あまつさえロックマン逃がしちゃうんだからさ』

ハハハ…と。
オイルが乾いた笑い声をバラードはあげた。

『…ロックマンキラーであるアタシをアタシ自身で否定して、アタシを望んで作ってくれたDr.ワイリーを裏切って、アタシ…何やってんだろうね全く…さ』
『……』

体育座りの格好を解いて、両腕部・両脚部を自然な形にバラードは伸ばす。
そして、両足の裏に仕込まれているバーニアを軽くふかし、クイントの目の前に移動した。

『バラード…?』
『でも、アタシ間違ってないよ』

クイントの目を真っ直ぐに見て、バラードは笑った。

『だってそうだろ? アタシが助けたんだから、アタシはアンタに―――『クイント』に会えたんだ』

オロオロしているクイントの目が、ひときわ大きく開かれた。
―――アタシが助けたんだから、アタシはアンタに会えた―――

メモリーに焼きついたバラードの音声が何度も何度もクイントの中でリピートされた。

『だからさ、うまく言えないけどさ、アンタは今からでもアンタの生き方探してみた方がいいんじゃないかな…って思うんだ』

―――でなきゃ助けたアタシの立場がないじゃないか。
そう付け加えて、バラードはクイントの顔をのぞき込んだ。

『ロック』じゃない、『クイント』の生き方。

消えた―――悪意を持って意図的に消された過去。
この身体は改造されつくして、元いた場所に帰る事ももうかなわない。

でも、『今』生きている。
こうして、別な名前になってしまったけれど…『今』、生きている。

『ボクに…』
『うん?』
『…出来ますか? ボクの、『ロック』じゃない、『クイント』の生き方…探せますか? 見つけられますか?』
『それはアンタの努力次第なんじゃないの?』

バラードの最後の言葉に、クイントはようやく笑顔になった。

**********

「たッだいまー」
「戻りました」

シュイン、と。
先鋭的なデザインの電子扉が開く。
先程とは違い、今度は1人ではなく2人で。

「遅かったな」

先程と同じく、エンカーが2人を出迎えた。

「そりゃあんな遠くから連れ戻してきたんだもん。遅くもなるさ。ねークイント?」
「申し訳ありません…」

クイントの表情が和らいでいるのにはあえて触れず、エンカーは2人にE缶を差し出した。

「アレ、いいのか?」
「エアバイクのメンテしてから…な」
「…ふぁ〜い」
「バラード、ボクもお手伝います」
「んー? …お願いしよっかな。行こッ、クイント」

2人が話しながら出て行った後で、エンカーは1人ボヤいた…どこか嬉しそうに。

「…通信回線は周囲の回線を完全に遮断してから使え、バカどもめ」

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