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2月 11th, 2013 Comments: 0

『痛い』

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Plurk
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ややエンカー←ロール要素アリ。

「ロールちゃん!! ロールちゃんではなくて!?」
「え? あっ、カリンカちゃん!? カリンカちゃんね!!」

街に博士のお使いを頼まれ、ロックと二手に分かれて買い物をしていたロールはそこでDr.コサックの愛娘・カリンカに会った。

「カリンカちゃん久し振りね!! 元気だった!?」
「ええ、もちろんですわ」
「でも見違えちゃったなー。背も少し伸びたでしょ?」
「ええ。それから、髪の毛も少し伸びましたの。おかげで毎朝寝起きが大変なのですわ。ブローにものすごく時間がかかってしまって」
「そ、そうなんだー……」

久々に会ったカリンカは少し大人びて、以前はロールより少し幼く見えていたのだが今では殆ど同い年くらいに見えた。

「今日はどうしたの?」
「お父さまがこちらにご用事でお出かけでしたので、私も着いて来たんですの」
「そうだったんだー」
「お父さまのご用事がすみましたら、お父様と2人でロールちゃん家…ライト博士の所へご挨拶に行こうと思ってましたのよ」
「あはっ、そうだったんだ!! じゃあ、しばらくいられるの?」
「もちろんですわ。ロールちゃん、お話したい事がたくさんあるんですのよ。いっぱいお喋りしましょうね」
「もちろんよ、カリンカちゃん!!」

**********

「へぇー!! カリンカちゃん、コサック博士とこっちに来てるんだ!!」
「用事がすんだらコサック博士と一緒に遊びに来るって。おもてなし頑張らなくっちゃ!!」
「そうだね!!」

カリンカと別れてロックと合流したロールは、先ほど会ったカリンカのことを帰り道の話題にしていた…が、その表情は今1つさえない。

「ロールちゃん、どうしたの? エネルギー切れたの?」
「え? う・ううん、何でもないわ…あ!!」
「え?」
「いけない、買い忘れがあったわ。今から戻って買ってくるから、ロックはこれ全部持って先に戻ってて!!」
「え、あ、ちょっと、ロールちゃん!!」

ロックの元から走り去るロールの目尻は、キラリと小さく光っていた。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

ロックの元から一目散に走ってきたロールは気付けば町外れのサッカー場に来ていた。ロックが良く他のロボットたちとサッカーをしているサッカー場だ。ちょうど芝が生え変わりの時期で、枯れた芝と芽吹いたばかりの芝が合わさって全体が黄色っぽくなっている。

「……ハァ」

サッカーグラウンドに下りていく階段の下から1段目にチョコンとロールは腰を下ろし、ため息をついた。
それから、両の膝の上に両肘を乗せ、手と手の節を合わせて広げた両の手のひらの上に、あごを乗せた。

「…ハァ」

こぼれるのはため息ばかり。

(……わたし、イヤな子だ)

またため息をつき、両の手の平で顔を覆い、ロールは俯いた。

かなり時間がたって後、ロールは背後に人の気配を感じた。

「…?」
「ここで何をしてる。このグラウンド芝は生え変わりの時期に入ったから、しばらくは使わんぞ。だいいち、今日は練習する日ではないし…」

ロールに声をかけたのは茶色い髪の少年ロボット。
ロールは顔を上げて、そのロボットの方に視線を向けた。

「…エン…カー……」
「ロックはどうした。サーチした限りじゃあ、半径1Km以内にはいないみたいだが」
「……」
「何だ、何を泣いている」
「え?」

エンカーにそう言われて、ロールは初めて自分が泣いていた事に気付く。

「あ、アレ、あ、あたし、あたし…」
「…話したければ、話してもいいぞ。聞いてやらん事もない。それとも、お前の家まで送っていく方がいいのならそうしてやる。今の俺は、Dr.に何の命令も受けていないから、お前の都合に合わせて俺の意思で動く事が出来―――」

エンカーは最後まで、言葉は続けられなかった。
……何故なら、ロールが急に抱きついてきたからだ。

「え…」
「わたし・・・どんどんイヤな子になっていくの」

ボロボロと、その目からは冷却水―涙―があふれてくる。高ぶる感情プログラムが熱暴走(オーバーヒート)を引きおこし、外部からも冷やさなければ電子頭脳の維持にかかわるからだ。

「…ロール?」
「カリンカちゃんの事は大好きなのに、彼女の成長を喜べないの!!」
(カリンカ? Dr.コサックの娘か。そういえばコイツらはDr.コサックと親密な付き合いがあったな)
「わたし、どんどん卑屈になっていくの。カリンカちゃんは変わらずにお話してくれるのに…。所詮わたしはロボットなのよ」
「ロール、貴様は…」

「ココロがあっても、ただの人形なのよ。……こんな事を考える私自身が大ッ嫌いよ!!!!!」

ロールの冷却水(涙)が止まらない。
いよいよプログラムの熱暴走(オーバーヒート)が激しくなっている様だった。

「ねェ、教えてよ…エンカー」
「え…」

「どうしたら前みたいに、カリンカちゃんの前で笑えるの? お話出来るの?」
「それは…」

「どうしたら…どうしたらわたしが心あるロボットして生まれてきた事を憎まずにすむの!?」
「!!!!!」
「ねェ、教えてよ、ねェ助けてよ、ねェ答えてよぉ…!!!!!」
「…ロール」

エンカーはなおも熱暴走(オーバーヒート)を激しくするロールの後頭部にそっと手を添えて……。

瞬間的に、高圧電流を流し込んだ。

「は…ぁッ!?」

無防備だったロールは瞬間的に流れ込んできたその高圧電流に電子頭脳をブロックできず、機能ががスパークし…そのままエンカーにもたれる様ブラックアウトした。

「…プログラムの熱暴走によるバグが出たんだ。だから多分、今のショックで次に起動した時は今言った言葉も悩み苦しんだ事も…きっとみんなデリートされて(忘れて)いるさ、ロール」

エンカーは自身の腕の中で『落ちた』ロールを抱きかかえたまま1人呟く。

「でもなロール。確かに俺達は『ヒト』とは違い、見た目の成長は出来ない。だがお前がそうやって悩み苦しむ事は、間違いなくお前…ロールを『成長』させているんじゃないかって、俺は思うが…な」

**********

「エンカー!? それに…ロールちゃん!? 何で…」

エンカーは『落ちた』ロールをそのままDr.ライトの研究所まで抱きかかえて送って行った。
研究所の玄関ではロールの帰りが遅いので心配したDr.ライトがロックに探しに行かせる所だったらしい。

「何があったかはよく知らんが、どうも熱暴走を起こした様だな。道端で倒れていた。たまたま通りかかったから、送ってきただけだ」
「そ、そうだったのか。ありがとう、エンカー」
「いや…」

全く動かないロールをエンカーはロックに任せる。

「じゃあ、俺は行くぜ」
「あ、エンカー待っ…」
「早くエネルギー入れてやれ。熱暴走でデータ(記憶)が飛んでたなんて、天下のDr.ライトの手がけたロボットにしちゃーお粗末だ」

(ココロがあっても、ただの人形……か)

(家庭用のお前達が言うセリフじゃあねェな)

(そういうセリフは―――)

「……」

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